生活と文化の総合センター

 「アート農園」は、美術・工芸・デザイン・ファッションはもちろんのこと、音楽やスポーツにいたるまで、生活全般に関わる様々な活動の中から「心の栄養」という成果物を収穫し、それを糧に豊かな文化生活の提案をしていきます。
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NPO法人アート農園「レクチャーシリーズVol.1」公開講座報告

 2007年6月17日(日)美術評論家中村英樹さんをお迎えし、「〈編集者のような自己〉の体感 ―脇役的作為の積極性を探る―」と題し、NPO法人アート農園「レクチャーシリーズVol.1」公開講座が開催されました。
 参加者はスタッフを含め50名弱、会場は満員となり充実した講座となりました。参加下さいました皆様。有り難うございました。この場を借りて厚くお礼申 し上げます。

 NPO法人アート農園代表 芝章文

●《編集者のような自己》の体感 講師/美術評論家中村英樹
●会場:京橋区民館
東京都中央区京橋2-6-7
東京メトロ銀座線京橋駅下車6番出口徒歩2分
●レクチャー参加費:1000円(ドリンク・テキスト代金を含む)
●テキスト:『アートフィールド芸術の宇宙誌』4号掲載(戦後日本美術の自主的な文脈)

〈編集者のような自己〉の体感――脇役的作為の積極性を探る


中村英樹

レクチャー風景  20世紀の主な思潮は、見せかけの自己の確かさにすぎない心の支えを徹底して否定する〈偶像破壊〉へと向かいました。時間とともに生きる生体の現象に他 ならない人間の姿が注目されます。しかし、生体に根ざす新しい心のシステムはまだ築かれず、今日、人々の自己喪失が社会を不安定にしています。
 そのような21世紀初めの状況では、あくまで生体の現象にとどまりながらそれを超える〈現象のうちなる不変〉の確立が望まれます。感覚器官による外部の知覚や脳内の記憶と、知覚された外部に対する反応の仕方を分節的な音声や手の痕跡などで仮に表わし、お互いに伝えあう、身体の仕組みにもとづく〈自己生成システム〉が不可欠です。
 アートは、言語以前の知覚と記憶の無数の微細な断片を組織化する仮設のシステムであり、固定観念に陥らずに自己の確かさを身体で体験する装置だと考えら れます。
 微細な断片が複雑に絡みあう自らの内なる闇が探られ、自分自身に対する脇役的作為に終始する〈自分を見る自分〉が、心のなかにしかない知覚や記憶どうしの〈境界〉において起動します。周囲に〈身を任せること〉と周囲から〈身を立てること〉を両立させるこの〈編集者のような自己〉の体感に、アートの原点があると言えるでしょう。
 ひとつの動かない視点に立って外から全体を一度に見とおす透視図法がすべてだと思われがちであった16〜20世紀西欧の表現に潜在する多視点的な生体の眼差しや、日本の深層と西欧近代とのハイブリッドの兆し、第二次大戦後の日本美術の自主的な文脈などを改めて読み直す。その積み重ねが、西欧の自我と東洋の無我、またはモダニズムとポストモダニズムを超える第三の精神構造、すなわち〈編集者のような自己〉における脇役的作為の積極性を探るための手掛かりになりそうです。
 新しい自己の在り方を切り拓くために、これらの異なった領域に属する視覚的表現の分析を自在に比較検討してみましょう。

レクチャー風景 参考文献
『鮮烈なる断片―日本の深層と創作現場の接点』
『日本美術の基軸―現代の批評的視点から』(以上、杉山書店)、
『表現のあとから自己はつくられる』『新・北斎万華鏡』(以上、美術出版社)、
『ハイブリッド・アートの誕生』
『視覚の断層―開かれた自己生成のために』(以上、現代企画室)、
『最深のアート/心の居場所―[実録]窮鳥はいかにして自己救済したのか?』(彩流社)、
『アート・ジャングル―主体から〈時空体〉へ』
『生体から飛翔するアート―21世紀の〈間知覚的メタ・セルフ〉へ』(以上、水声社)
その他、「美術手帖」2007年3月号特集「アート・クラシック」
「日本現代美術の自主的な文脈」(『ART FIELD―芸術の宇宙誌』04、2007年3月、アート農園)