千葉の印旛沼のほとりにあるメタルアート美術館を訪ねて
Metal Art Museum Hikarinotaniという名の美術館は日本橋から都営地下鉄で1時間、終点の印旛日本医大駅で下車。1時間に1本しかない、しかも接続の悪いバスは出たばかりで、1時間も待たされて、田畑ばかりの田舎道を30分、小さなバスに揺られて着く。
印旛日本医大駅の新しい建物は外観はどこか宗教の殿堂を思わせる変ったデザインである。が、構内はベンチひとつなくガランと寒々として人もいない。外は広い道は走ってるが建物もわずかでどこか外国にでも来たようで、こんなところでどうして1時間をつぶそうかとゆううつになる。
しかし、印旛沼の用水路のわきに立つ、メタルを使用した現代美術ばかりを1ヶ月の長さで展示するこの美術館に来てみると、そんなゆううつはふっ飛ぶ。狭いけど、とても面白い空間の美術館である。
この平野に吹きつける強い風にインスパイヤーされて「風をはらむ形」を今発表しているのが、私と同じ大学の友人である坂口喜美子さん。風がつくる柔らかい形を金網に陶芸の釉薬を塗って焼成してつくった形が、いくつも天井の高い細長い空間に置かれている。アートとはもともと現実とは異質のものだから、この非現実的な美術館の空間が友人の作品と共鳴して、友人の創造した世界に見る人を導き入れる。
このことは見る人にも幸せな時間を作ってくれるが、たぶん作者にとっても非常に喜ばしいことにちがいない。坂口さんはこの美術館の空間を発表場所に与えられたお陰で大きく飛躍した。この空間が1人の作家に大きい歴史をつくった。私もアーティストとして、こんな美術館との出合が欲しいものだと思った。1日がかりで訪ねた雨の降る寒い日、不便な美術館であったが大変得をした気持になれた坂口さんの作品とメタルアート美術館であった。
2003年11月11日 坂井眞理子
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